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障害のある人の健康維持と医療問題


障害のある人を取り巻く地域医療体制の現状

患者の権利と医療機関の義務


 

障害のある人を取り巻く地域医療体制の現状

 

1.健康診断について

 障害のある人を取り巻く医療の現状は、とても悲惨なものがあります。まず第1に挙げなければならない問題点は、定期健康診断の保障ということです。改めて言うまでもありませんが、定期健康診断は障害の有無に関わらず憲法第25条に基づいて、国民である限りは権利として保障されています。障害のある人も学齢期においては、養護学校等で健康診断は定期的に行われています。養護学校卒業後は、法的に一般就労すれば職場で健康診断は保障されていますし、福祉的就労として通所施設でも同様です。しかし、在宅の場合は、多くの障害のある人が定期健康診断を受けられていないという問題があります。全国の各自治体では市民向けに「市民健康診断」が設けられ、40歳以上の市民に対して成人健康診断(胃ガン・大腸ガン検査)が保障されているのですが、階段付きの狭い検診車で対応しているために、実際には重い障害のある人は全く受け付けてもらえません。

 私の周りを見渡しても、養護学校卒業から20年以上も健康診断を受けたことがないという障害のある人が数多く存在しています。現状においては、障害のある人は定期健康診断を受けることさえ保障されていないのです。

 

《対策》

 今後の方向性について、前例として横浜市総合リハビリテーションセンターや国立身体障害者リハビリテーションセンター等で障害のある人の健康診断を実施しています。その診断内容を子細に検討し、どう全国の自治体で取り入れさせるのかが今後の課題となります。

 

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2.通院に関する問題について

 第2の問題点としては、医療機関への通院に関することです。障害の有無に関わらず、誰でも風邪等、ちょっとした病気にかかります。怪我をする場合もあるでしょう。そんな時、誰もが必要に応じて医療機関に通院します。しかし、障害のある人の場合は、そんなことにも数多くの問題が立ちはだかってしまいます。それらの問題の中には、医療機関の持つバリアの問題があります。障害のある人が、医療機関までの距離と介助者の確保という難題をなんとか解決したとしても、医療機関の入口に階段があったり、診療室が狭い等のバリアが立ちはだかります。そして、さらにそれらのことを何とか解決したとしても、残念ながら医師や看護師が障害のある人に慣れていないために、コミュニュケーションが成立しなかったり、誤診されたり、ひどい場合には診療拒否に会うことさえあります。

 私の知り合いの医学生から見せて頂いた教科書には、脳性マヒ等、障害のある人に関する記述はわずか半ページしか書かれてはいませんでした。いずれにしても、医療機関への通院さえも保障されていないというのが現状です。

 

《対策》

 今後の方向性としては、障害のある人が少なくとも次の2つの課題に意識的に取り組む必要があると思います。

@医療機関に通院するに当たって、自分の障害状況や服薬内容、病歴や現在 の症状等について、文書でまとめておくこと。医師や看護師とのコミュニケーション障害を改善し、適切な医療を受けることができる可能性が広がる。

A地域にかかりつけの医療機関をもつこと。多少トラブルがあっても、あきらめずに理解してもらうまで粘り強く働きかける。

 

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3.入院に関する問題と基準看護法について

 第3の問題としては、医療機関への入院に関することがあります。障害の有無に関わりなく、誰もが大きな病気にかかれば医療機関に入院します。ところが、障害のある人の場合は、医療機関への通院の時と全く同じ問題が起こります。さらに入院時は「基準看護法」との関係調整という新たな問題が発生します。

 みなさんご存じの通り「基準看護法」は、1958年に入院患者の権利を守るために制定された画期的な法律です。この法律が制定される以前は、入院患者が治療を受けるためには家族が付き添うか、または高額な費用を負担して付き添い婦を雇うかしかありませんでした。しかしこの法律が制定されたおかげで、患者の治療及び生活は医療機関が保障しなければならなくなりました。本来であれば、障害のある患者が治療を受けるために必要な介助も、同様に医療機関として保障しなければならなくなったはずでした。ところが、この素晴らしい法律も一度障害のある人が入院する場合、大きな問題として立ちはだかることになります。

 改めて言う必要もないですが「基準看護法」は完全看護を意味しているわけではありません。ただでさえ看護師は、過重労働のせいもあって慢性的に人手不足です。ですから、よくて看護師1人が5人の患者を受け持っているような状態です。そこに障害のある人が入院することになるわけですから、介助が保障されるはずはありません。そもそも多くの看護師は、障害のある人に慣れておらず、食事やトイレの世話以前にコミュニュケーションを成立させることさえ困難な場合が多いのです。まして重い障害のある人にとっては、治療を安心して受けるためには介助の保障が不可欠になります。こうした問題が重なる結果、障害のある人が入院した場合、治療を受けに来たはずが医療機関でますます衰弱していくというとても笑えない深刻な状態になります。

 私の友人の障害のある人の場合、夜中にもどしてしまったのですが、1人でナースコールを押すことができず、吐いた物を喉につまらせて死にかけてしまいました。そこでこれらの問題を踏まえて、障害のある患者としてやむを得ず介助者を病室に入れようとしても「基準看護法」が存在するおかげでほとんど不可能です。「基準看護法」は、原則として外部の人間の付き添いを一切認めてはいません。もし、外部の人間の付き添いを認めていることが公になれば、その病院は厚労省から医療機関としての資格を剥奪されることになります。

 現在は、国立や私立の医療機関が比較的柔軟に「基準看護法」を運用しています。つまり「手術後2週間は、現場の医師の承認が得られれば、家族が付き添うことができる。」という規定に拡大解釈を施し、障害のある患者に対して介助者の付添いを認めるというものです。もちろん公開されることはありません。

 障害のある人が入院した場合、都の介助制度としては「支援費制度」の居宅介護支援の日常生活支援と重度心身障害者手当が適用されます。しかし重度心身障害者手当は、入院期間が3ヵ月を越えると打ち切られます。全国の自治体によっては「支援費制度」での対応が認められていない例があります。また、各自治体の独自の制度が、特例として対応している場合もあります。

 近年、障害のある人が地域で生活する機会が増えてきました。また、施設での生活も大幅に改善されて来ています。しかし、社会的に障害のある人の存在が保障されていると言えるでしょうか? 少なくとも医療に関しては、この様な有り様です。そして、障害のある人を取り巻く医療全体がこの様な状況の上に、さらに脳性マヒ者を含む全身に障害のある人の場合は、二次障害という深刻な問題がのしかかっているのです。

 

対策》

 通院の場合と同様に文書の準備が必要です。その上で、入院中の介助が必要な場合は、医療機関側の立場も踏まえて、あきらめずに働きかけることが大切です。ただし、集中治療室や重症専門病棟に入院した場合は、難しいと思われます。

 今後の「基準看護法」との調整に関する厚生労働省への働きかけについては、原則的に障害のある患者に対しても「基準看護法」内で介助も含めた保障が実現されるよう主張することが大切だと思います。そして、医療機関に体制が整うまでの間は、暫定的に介助者の病室への入室を認めさせていくことが必要です。厚生労働省への取り組みは「全国自立生活センター協議会」等が行っていますので、動向に注目する必要があります。

 

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4.適切な医療を受けるために(通院時と入院時に共通の問題について)

 最近、あちらこちらで身近な障害のある人達が倒れています。皆40代を過ぎて、ある人は命に関わるような血管の病気にかかり入院することになった例や、ちょっとした風邪(肺炎?)をひいたことをきっかけに、人工呼吸器等の生命維持装置が必要な状態に陥った例もあります。全国的に見ても、中高年の重い障害のある人が医療機関を必要とする場合が増えています。障害のある人に限らず皆等しく歳を取るのですから当たり前の現象とも言えますが、2〜3の課題でも触れたようにそれらの例の中には、適切な治療を受けられなかったり、誤診されてしまった結果、最悪の場合は死に至るケ−スも少なからず見受けられます。それは入院時だけではなく、通院の場合でも同様の問題を抱えています。

 もちろん全ての医療機関に問題がある訳ではありません。障害のある人に対しても、適切に治療してくれる病院もあります。しかし、健常者が患者である場合でも医療ミスが多発している現状があります。現代は障害のある人に限らず、患者本人や家族、そして周囲の者達がある程度の医療知識を持ち、自らの治療に対する方向性を定めなければ、身を守ることができない世の中であると言えます。

 

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 この問題は決して人ごとではありません。もしも皆さんが医療機関により自らの意志に反した治療を施され、それが誤診に基づいたものだとしたらどうしますか? その時点で皆さんの命は危機にさらされることになります。ましてや意識不明になるほどの重病の場合、皆さんの治療内容の決定に関して、誰が責任を持った判断を下せるのでしょうか? これらの問題を考えるために、医療の現状を患者の権利と医療機関の義務という視点から見ることにします

 

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患者の権利と医療機関の義務

 

@インフォ−ムド・コンセント

 インフォ−ムド・コンセントは、1970年にアメリカやヨ−ロッパにおいて確立した患者の権利と医療機関(医師)の義務という所から見た法的な考え方です(ニュルンベルグ倫理綱領)。医療機関が職務上知りえた患者個人の情報については医師に守秘義務があり、患者には医療上の自己の真実を知る権利があるので、医師には個々の患者が理解し納得できるように説明する義務があります。医師は病状を説明するだけではなく、検査法や治療法に複数の選択肢をつけ、それぞれの効果や優れている点のみならず、将来への影響や欠点、さらに生命への危険性まで説明しなければなりません。そのことによって、患者が比較検討して自分が受けたいと思う治療法を自主的に判断して選択できるようにしなければなりません。患者は、自分が選んだ検査や治療を受けるために必要な医学的処置を医師が自分の身体に加えることに同意する権利と共に義務があります。この考え方は、日本においても医療倫理として位置づけられており、もし、患者の同意なくして勝手に医療処置を施したとすれば、医師であっても故意に傷害を加えたものとして社会問題化できます。

※ 医療機関における患者に対する治療は、どうしても専門家における密室的なものになりがちである。したがって、医療過誤を完全に防ぐことは難しい。しかし、患者自らの治療内容を医師に開示させることによって、医療機関を患者側から監視することができる。
 よく患者や家族から「医師に説明を求めると気分を害されるので恐ろしい。」と言われるが、インフォ−ムド・コンセントは患者の権利であり自らの治療内容を決定するのは患者としての義務であることを改めて確認しておきたい。

 

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Aセンカンド・オピニオン

 患者自身が自らの治療法を選択するためには、主治医からインフォ−ムド・コンセントを受けることが前提となります。しかしその結果、主治医の治療法にどうしても納得ができない場合は、主治医以外の二人目の医師の意見を聞いて、患者の思考を反映させた医療の内容を決めていくという臨床医療のあり方です。日本でも医療倫理として位置付けられています。特に大きな手術を受ける場合、医師による診断が異なることがあるので、患者として自らの命を守るためには有効な手段となります。

 

 今から約3年程前、重い脳性マヒ者のAさんは乳癌の手術を受けました。彼女は自らの治療方針を選択し、心から医師の診断と手術方法(治療法)を信頼するために、母親の反対を押し切りセカンド・オピニオンを受けました。その当時、母親は「複数の医師に相談することは主治医の不興を買ってしまう。」と非常に気にしていました。最初、K病院の主治医は彼女の要求に対して納得がいかぬ様子でしたが、彼女の説得に負けて、彼女が本で調べたO癌専門病院にカルテと検査に使用した「組織」を送ってくれました。その結果、乳癌(ステージ2)という診断は同じでしたが、手術方法が大きく異なっていました。K病院では、乳房温存療法として右乳房の病変及びリンパ節の切除を行い、その後、放射線治療を施すというものでしたが、O癌専門病院では、乳房全切除しか治療方法がないというものでした。O癌専門病院の医師は、彼女の話に耳を傾けようとはせず、日本の癌治療がアメリカやヨーロッパと比べて乳房全切除に偏り過ぎているという傾向について、全く取り合おうとしませんでした。それどころか、患者が主体性を表すことについて不快感をあらわにしていました。彼女は、こうした医師の対応の違いを体験した結果、K病院で手術をすることを選びました。彼女はセカンド・オピニオンによって、心から主治医を信頼することができ、手術結果について自らの責任として引き受けることができました。現在彼女は、前向きな生活を送っています。

 ※ ファースト・オピニオン(主治医)とセカンド・オピニオンの診断が異なる場合で判断がつかない時は、サード・オピニオンを求めることも考えられる。セカンド・オピニオンを得たいと言ったら不愉快になったり、カルテ・検査記録などを貸し出さない等、セカンド・オピニオンに非協力的な医療機関は要注意。

 

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Bカルテ開示

 自分がどのように診断され治療されているのかを確かめるために、医療機関が、患者の請求によってカルテ(診療記録)を患者に公開することです。1998年6月、当時の厚生省の検討会は医師の開示義務と患者の開示請求権を医療法に明記すべきだという提言を盛り込んだ報告書をまとめました。その後、日本医師会は「2000年1月1日から、全国の全ての病院・診療所で自主的にカルテ開示を始める。」と宣言しました。同時に、カルテ開示をしない病院・医師に対して責任を持って指導することも宣言しました。

 カルテ等(診療録・看護記録・検査記録・X線写真等)のコピーを入手することは近年、容易になりつつあります。地方自治体が設立した病院(県立や市立や町立など)の場合、その自治体が個人情報保護条例を制定していれば、役所の条例窓口でカルテを請求できます。また、個人情報保護条例を持たない自治体でも、情報公開条例(公文書公開条例)を持つ場合は、その条例によって個人情報の本人開示がされるべきであると、1996年9月27日、大阪高裁は判決を下しています。

 しかし、医療過誤による裁判の可能性がある場合は、少しでもカルテ改ざんなどを防ぐ必要があります。そのためには裁判所を通じた証拠保全が最善です。

 ※ 開示する姿勢がない医療機関等は避ける方がよい。また、開示するとしても、コピーをさせないとか、遺族には開示しないというような医療機関はなるべく避ける。

 

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Cレセプト開示

 レセプト(社会保険診療報酬明細書)に書かれた診療内容や金額については、当の患者はまったく知らされないため、しばしば医療機関の不正請求が発生します。市民グループなどが中心になって、情報公開のひとつとしてレセプトの開示を厚生省(厚生労働省)に求め、1997年6月に認められています。

 ※ 医療機関としては、患者の治療に関して薬を使用すればするほど利潤を上げることができる。そのために、本来の治療に必要とする以上の薬を使用している例が多々見られる。その結果、場合によっては患者は命の危険にさらされ、薬の併用による副作用に悩まされることになる。患者が適切な治療を受けられているかどうかを確かめる意味で、有効な手段である。

 


「現代用語の基礎知識2001」と医療改善ネットワークHP、医療情報の公開・開示を求める市民の会HPより

 

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