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リハビリテーションを日常生活に活かそう!(第4回シンポジウムの開催)


 

 現在の障害のある人を取り巻く医療の状況は深刻です。医師や看護師が障害のある人に接する機会をなかなか持てなかったために、ともすればお互いのコミュニケーションさえままならない状態があります。また入院する場合には、基準看護法が制定されているにも関わらず、障害のある人が安心して介助を受けることが出来ないという問題に直面しています。しかも全身に障害のある人はこのような問題を抱えている上に、さらに変形性頚椎症等の二次障害を背負うことになります。

 私達「障害者医療問題全国ネットワーク」(以下「二次障害情報ネット」と略す)はこのような障害のある人の医療の現状をふまえ、日頃から二次障害の予防と治療という問題の重要性を感じてきました。そこでこの度、本年の一月二十三日の一三時三〇分から十六時まで、全国障害者総合福祉センター(戸山サンライズ)において、障害当事者や家族(支援者)と医療関係者が交流し、リハビリテーションを地域で活かすために障害者医療問題第4回シンポジウムを開催致しました。以下、報告いたします。


講師の福井香織氏講師の福井香織氏

 

 

 

 

実演風景

実演風景

 

反射性寝返り運動1相の出発肢位

反射性寝返り運動1相の出発肢位

反射性寝返り運動1相の治療風景

反射性寝返り運動1相の治療風景

 

反射性寝返り運動2相の出発肢位

反射性寝返り運動2相の出発肢位

反射性寝返り運動2相の治療風景

反射性寝返り運動2相の治療風景

 

反射性腹這い運動の出発肢位

反射性腹這い運動の出発肢位

反射性腹這い運動の治療風景

反射性腹這い運動の治療風景

 

治療前

治療前

治療後

治療後

 

 

交流会風景

交流会風景

 

 

 当日はあいにくの空模様でしたが、講師に大阪府立大手前整肢学園の理学療法士である福井香織氏をお招きし、都内や埼玉県を中心に障害のある人や家族、介助者等を含む約七十名程の参加者を得ることが出来ました。

 大阪府立大手前整肢学園は、運動療法の一つである「ボイタ法」を先駆的に実践してきた医療機関です。世田谷区内の二次障害で苦しむ脳性マヒ者の安倍さん(「けんこう通信」六号参照)や遠藤さん(同二〇号参照)をはじめ、幾人かの障害のある人を治療してきた経験があり、股関節や頚椎の痛みの軽減や全身の姿勢の改善等、確実に効果をあげてきました。

 

「ボイタ法」って何?

 当日の講演では、まず「ボイタ法」による治療内容の詳しい説明がありました。「ボイタ法」は、人間が赤ちゃんの頃から成長する中で獲得する寝返りや這い這い、立ち上がり等の運動の過程に着目する運動療法です。具体的には、生後八?九ヵ月の赤ちゃんに自然に現れる仰向けから寝返り、四つ這い移動の運動が含まれている「反射性寝返り運動」と、生後三ヵ月の赤ちゃんがうつ伏せになり、肘で上体を起こすような反応から、一歳を過ぎて独歩になるまでの運動が含まれている「反射性腹這い運動」を基本とし、それぞれの運動の筋肉の働きを促していきます。

 これらの二つの「反射性の運動」は基本姿勢(出発肢位)をとり、刺激のポイント(「誘発帯」)を刺激することによって、寝返り、四つ這い、独歩等の運動をするために必要な筋肉を働かせていきます。決して、寝返りや四つ這い、独歩等の練習をさせるものではありません。

 

「反射性寝返り運動」とは?

「反射性寝返り運動」には二種類あり、仰向けの姿勢から始まる「一相」と呼ばれるものと、横向きの姿勢から始まる「二相」と呼ばれるものがあります。

「一相」の治療を受ける場合は、まず「仰向け」の姿勢をとるところから始めます。治療を受ける人は、両手両足を身体に対して両側に自然に置き、顔は片側に向けます(顔面側)。

 治療者は、顔を向けた側のみぞおちから体の横側に延ばした線と、乳頭から足に向けて真っ直ぐ延ばした線が交わるところにある刺激のポイント(「誘発帯」)を治療を受ける人の背骨に向かって指で刺激し(止め)ます。その後、治療を受ける人は顔を反対側に向け、治療者が同内容を繰り返します。

 つまり「一相」の治療は、横隔膜を刺激することにより呼吸が深くなり、全身運動を促すことになります。

 

「二相」の治療を受ける場合は、まず「横向き」の姿勢をとるところから始めます。治療を受ける人は、背骨を真っ直ぐにして背中を床面に対して直角に立てます。体の上にある方の手は背中側に置き、足は体の側面に対して自然に後方に置きます。身体の下にある方の手は、身体の側面に対して直角に前に出し、足は身体の側面に対して軽く前に出し、少し膝を曲げます。

 治療者は、片方の手の指で治療を受ける人の身体の上の背中側にある肩甲骨の下の縁にある刺激のポイント(「誘発帯」)を、身体の下側にある手の肘に向かって押し(止め)、同時にもう片方の手の指で治療を受ける人の身体の上側の骨盤前方(へその横)にある突起の少し内側(上前腸骨棘)を、刺激のポイント(「誘発帯」)として身体の後方に向かって押し(止め)ます。治療者は、二つの「誘発帯」の押す方向を逆方向で平行になるように意識します。その後、治療を受ける人は反対側に横向きになり、治療者が同内容を繰り返します。

 つまり「二相」の治療は、背骨を回旋、伸展させることにより、両手足の動きを促し、四つ這い運動にいたる筋肉の働きを引き出していきます。

 

「反射性腹這い運動」とは?

「反射性腹這い運動」の治療を受ける場合は、まず「うつ伏せ」の姿勢をとることから始めます。治療を受ける人は、背骨をなるべく真っ直ぐにし、顔は軽くあごを引き、片側に向けます。顔を傾けた方の手は上に上げ、軽く肘を曲げます。その際、手首と肩間接を結ぶ線は、背骨と平行になるようにします。頭の後方の足は軽く膝を曲げ、骨盤の中で座ったときに椅子に当たる骨(坐骨)と踵を結ぶ線は背骨と平行になるようにします。顔を向けた方の足と頭の後方の手は、自然な姿勢で床面に置きます。

「反射性腹這い運動」の刺激のポイント(「誘発帯」)は、主なものと補助的なものに分かれており、主な「誘発帯」は、顔を向けた側の手の肘の後ろ側(上腕骨内側上顆)と、足の膝頭の外側のくぼみ(大腿骨内側上顆)、頭の後方の手の親指側手首のすぐ上にある突起(とう骨茎状突起)と、足のくるぶしから下に下がったところにある突起(踵骨隆起外側突起)の四つがあります。 補助的な「誘発帯」は五つあり、顔を向けている側の肩甲骨の背骨側の縁(肩甲骨内縁下三分の一と二分の一の間)と、骨盤前方(へその横)にある突起の少し内側(上前腸骨棘)、頭の後方の肩甲骨下側の肋骨の間と、肩先(肩峰)、お尻の横の筋肉(中殿筋)があります。

「反射性腹這い運動」の治療は、頭の後方の刺激のポイント(「誘発帯」)を中心に治療を受ける人の障害状況に合わせて、治療者が各「誘発帯」を刺激します。

 つまり「反射性腹這い運動」の治療は、起き上がりと身体の中心から支えている両手足の前進運動を促し、独歩に至る筋肉の働きを引き出すことになります。

 

「自主訓練」と「自己管理」について

 これまで説明してきたように「ボイタ法」では、治療を受ける人が専門の治療者から「反射性腹這い運動」と「反射性寝返り運動」による治療を受けるという方法があります。

 大阪府立大手前整肢学園では、治療を受ける人が通院により「ボイタ法」の治療を受けるというものだけではなく、重い障害のある人の場合は、家族や介助者と共に「親子入園」を四週間することにより、家族や介助者が専門の治療者から「ボイタ法」の指導を受けることが出来る取り組みも行われています。この取り組みにより、家族や介助者が「ボイタ法」を習得することが出来、自宅で日常的に「ボイタ法」の治療を続けることが出来るようになります。

 それ以外に、治療を受ける人が「ボイタ法」を日常的に実践出来る取り組みとしては、最初は専門の治療者の指導が必要ですが、最終的には自分で「ボイタ法」を自宅で行うことにより、運動の改善が得られる(「自主訓練」)という方法もあります。

 治療を受ける人がとれる範囲で「反射性腹這い運動」と「反射性寝返り運動」の基本姿勢(出発肢位)をとることにより、筋肉の働きを引き出すことが可能です。年齢の高い人が、自主訓練を習得することで自分の身体を管理することが出来るようになります(「自己管理」)。

「ボイタ法」は他の治療法とは違い、専門の治療者による治療のみではなく、治療を受ける人や家族、介助者がやり方を習得することで日常的に自宅で取り組めることが大きな特徴ともいえます。

 

「ボイタ法」の症例紹介と実演

 講師による「ボイタ法」の説明だけではなく、詳しい症例紹介に至るまでかなり踏み込んだ内容が語られ、非常に充実したシンポジウムになりました。特に前掲した脳性マヒ者の安倍さんの例(「親子入園」での「ボイタ法」の治療を受ける前と後の比較写真)が、非常に判りやすく、姿勢が真っ直ぐになっていく姿が印象的でした。

 

 また、当日の健常者スタッフの協力を得ることで「ボイタ法」の実演まで行うことが出来ました。日頃、腰痛で苦しんでいた健常者スタッフの姿勢が、講師の「ボイタ法」の治療により目に見えて真っ直ぐになりました。実演終了後、本人が「普段は腰の痛みで出来なかったんですよ」といいながら、最初は恐る恐るでしたが、腰の痛みが無いのを確かめると屈伸運動をスムーズに行なえていたのには驚かされました。

 


 

 さらに午後五時から午後六時まで講師を交えた交流会を持つことが出来ました。その中で改めて「ボイタ法」の刺激のポイント(「誘発帯」)の刺激の仕方(方向)についての質問や、鍼灸や指圧等の他の治療法との併用に関すること等、普段なかなか聞くことが出来ない話題が交わされました。

 当日配布されたアンケートには、参加者から「分かり易い講演だった」「『ボイタ法』の実演の時間を長く取って欲しい」「我が子の二次障害の進行を見守っているが、地域で『ボイタ法』の治療を受けられる場所が欲しい」等の多くの意見が寄せられ、改めて「二次障害情報ネット」として障害のある人や家族(支援者)のリハビリテーションに対する関心の高さと切実な状況を認識させらるシンポジウムとなりました。

文責:小佐野

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