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自分の障害を知ろう

第6回シンポジウムの報告


 

 2006年11月12日(日)に国立オリンピック記念青少年総合センターで、障害者医療問題全国ネットワーク(以下「二次障害情報ネット」と略す)の第6回シンポジウムを行いました。
 参加された方は116名。愛知・静岡・神奈川・千葉・茨城等から二次障害で苦しんでいる障害当事者を始め、支援者の方や医療関係者の方等、多方面からの参加がありました。以下、プログラムに沿ってご報告致します。

 

1.国の「リハビリの診療報酬改定」についての緊急報告

会場入口 まずプログラムの最初に、現在全国的に大問題となっている「リハビリの診療報酬改定」について“ポリオの会”から報告されました。これまで必要に応じて保険診療で出来ていたリハビリが、本年の4月から厚労省により一部の疾患を除き、原則として発症から最大180日に制限されました。これにより医療の現場では大きな混乱が起こっています。混乱の大きな原因は、国民皆保険以来初めて医療保険から「患者切り捨て」がなされたことです。これまでは患者負担額が増える流れはありましたが、患者を直接に保険対象から外す「切り捨て」は初めてです。これを契機に、今後様々な慢性疾患の医療保険に日数制限が設けられることが考えられます。
 こうした厚労省の「リハビリの診療報酬改定」により、これまでリハビリで機能回復や機能維持を図っていた脳血管障害や運動機能障害を持つ人達の症状の悪化を招き、結果的に多数の「医療難民」を生み出すこととなりました。厚労省は「その後は介護保険の通所リハビリで対応する」という見解を示していますが、この内容ではもともと通所施設自体が足りず、しかも介護保険のサービス対象者しかリハビリを受けられないことになります。また現場では理学療法士の人数が不足し、個別に丁寧なリハビリによる対応が出来ない等の問題を抱えています。今回の厚労省の改定は、障害を持つ人達に大きな不安を抱かせることになりました。

 

2.脳性マヒ者の二次障害を中心としたパネルディスカッションの開催

パネルディスカッション風景 次に「自分の障害を知ろう」というテーマを掲げ、脳性マヒ者の二次障害の問題を中心にパネルディスカッションを行いました。今回のパネルディスカッションは、医療関係者と障害当事者が同じテーブルに着いて意見交換を行うという意味で「二次障害情報ネット」として初めての試みであり、他にはなかなか例がない画期的な内容となりました。
 まず、コーディネーターを担当した「二次障害情報ネット」の副代表である小佐野の方から、障害のある人の医療問題の全体状況として「@地域の重い障害のある人が、健康診断をなかなか受けられない。A障害のある人が通院する場合、医師や看護師が障害のある人に慣れておらず、治療以前にコミュニケーションさえなかなかままならないために、誤診されたり、診療拒否に遭う場合がある。B障害のある人が入院する場合、通院時と同様の問題が発生するばかりでなく、看護師不足等の原因により医療機関が本人の介助を保障出来ないため、治療以前に障害のある人が衰弱してしまう。そこで病室に介助者を入れようとしても、基準看護法の関係で医療機関に認めてもらえない」等の事例報告がありました。そして、これらの障害のある人の日常的な医療問題に加え、全身に障害のある人の二次障害という深刻な事態が生じることについてあらためて提起されました。
 次にコーディネーターからの提起を踏まえ、3人のパネラーの方達が自らの体験を含めて話されました。その内容は以下の通りです。

○玉井明さんの話

 玉井さんは自らが脳性マヒ者で「二次障害情報ネット」の会員です。以前に神奈川県障害者自立生活支援センターの運営委員長を務めており、昨年に3度目の変形性頚椎症による手術を受けた経験を踏まえ(3度とも横浜南共済病院)、脳性マヒ者の二次障害について問題提起をされました。
 まず、最初に脳性マヒについての説明がありました。脳性マヒは脳の運動野の損傷により特有の症状が出てくる障害で、生後1年までに症状が現れ、周産期の早産や出産時の酸素不足、黄だん、低血糖の問題、出生後の発熱や脳外傷等の様々な原因で起こります。主な種類は@アテトーゼ型、A痙直型、B硬直型、C失調型、D混合型があり、共通の症状としては、不随意運動による筋緊張の調整がうまく出来ないというものです。
 二次障害の症状は痛みからシビレ、腕に力が入らなくなる、転倒しやすくなる等があり、玉井さんの経験では「整形外科手術により完全には良くならないが、当初は進行が抑えられた」ということでした。しかし、手術しても先天的な緊張がなくなる訳ではないので、エネルギー代謝も激しく加齢も速く、将来的には手術した部分の前後の骨が再び圧迫され、10年くらいの周期で再度二次障害が現れる可能性があるということでした。だから無理をしないで介助者をつけることや、リハビリを継続していくことの必要性が強調されました。

○井上さつきさんの話

 井上さんも同じく脳性マヒ者で、愛知県にある小規模作業所「くれよんBOX」を運営しています。30歳になって指先のシビレと首の痛みが出てきたそうです。その頃は自力歩行ができ、身の回りのことは時間をかければ自分で出来ていましたが、名古屋市総合リハビリテーションセンターを受診した時、医師から初めて二次障害という言葉を聞き「このままだと将来寝たきりになる」と言われ、とてもショックを受けたそうです。
 その後、34歳の夏ごろから左肩の筋力が衰え、左手(利き手)で食事がしにくくなりました。そのため右手を使うようになりましたが右手も痛くなり、年末には転びやすくなって屋内でも歩行できなくなったそうです。翌年からは首からの痛みとシビレが身体中を襲うようになり、セカンドオピニオンを受けて手術に対して納得をし、35歳の時に名古屋市総合リハビリテーションセンターで手術を受けました。5ヶ月間の入院を経て痛みや痺れはなくなったそうですが、車イス生活となり、現在ホームヘルパーの派遣を利用して生活しているとの報告がされました。

○近藤総一さんの話

会場風景 近藤さんは横浜南共済病院で整形外科部長をされている方で、脳性マヒ者の変形性頚椎症の詳しい症例と、それに対する治療や予防、日常生活の注意点についてお話しされました。
 変形性頚椎症は、一般的には椎間板(5枚ある)のすきまが狭くなり、知覚神経が刺激され手や足に痛みやシビレを感じるようになり、それがやがては全身に影響する形で現れます。整形外科手術については、各大学病院や総合病院で様々な施術法が試みられており、定式化したものはないそうです。脳性マヒ者の不随意運動を抑えることがまだ確立していないため、前述の玉井さんの症例のように、二次障害の再発を防ぐことは難しいというのが現状であると説明されました。
 また、二次障害の病状が悪化したから即手術とは考えていないとのことで、脳性マヒ者に注意して欲しいこととして「日常生活で車イスにドシンと座るとか転倒することを防ぎ、頚椎に衝撃を与えないようにすること」を強調していました。ソフトカラー(ポリウレタン製のコルセット)をつけることは、変形性頚椎症の初期段階では効果的な治療法であることが説明され、あくまで整形外科手術は二次障害を治すことではなく、当面の進行を止めるための一つの手段であるとの報告がありました。

 


 

 ここで一旦休憩をはさみ、あらためてコーディネーターがパネラー3人の提起の共通点として、@当事者の二次障害に対する認識の不足、A二次障害の日常的な予防、治療の大切さ、B医療関係者と障害当事者相互に望むことの3点の内容でまとめました。特にBについては、障害当事者は医療関係者に自分達の障害についての理解を切実に求めているのに対し、医療関係者は障害当事者に二次障害についての理解と医療現場での配慮(予め自らの障害や病歴をまとめておくことや、受診に至るまでの症状の記録の作成等)を求めていることが浮き彫りとなりました。

 

 その後、パネラー3人から各5分程度の補足があり、会場からの質問を交えての質疑応答が行われました。障害当事者の2人のパネラーに対しては、二次障害についての理解の深まりの過程や手術体験について、障害のある参加者を中心に突っ込んだ質問がありました。また近藤医師に対しては、日常的な二次障害の予防についての質問が多くありました。それに対し、近藤医師からは「就寝中は枕をできるだけしない方が良く、ソフトカラーをつけることが効果的である」旨が強調されました。それは就寝中に椎間板を圧迫するからとの理由であり、長時間下を向いたままの姿勢はよくないと結ばれました。

 

親睦会風景 最後にコーディネーターから今回のシンポジウムで明らかになった課題として、前述した@当事者の二次障害に対する認識の不足、A二次障害の日常的な予防、治療の大切さ、B医療関係者と障害当事者相互に望むことが再び強調されました。そしてそれぞれの課題を前向きに解決していくためにも、障害当事者と医療関係者が同じテーブルに着き、対等な立場で意見を交換し合うことの重要性が会場全体で確認されました。

 

 シンポジウム終了後に開催された親睦会では、シンポジウムに参加された方の半分以上が出席され、それぞれの体験やパネラーに対する熱心な質問が交わされていました。

 

以上
報告:事務局

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